中国人観光客の地方誘客を促進する体験コンテンツ造成とプロモーション戦略
東京・富士山・京都・大阪を結ぶ「ゴールデンルート」。長年、訪日中国人観光客の主要な周遊コースとして人気を博してきました。しかし、近年、旅行のスタイルは団体旅行から個人旅行(FIT)へとシフトし、リピーターが増加するにつれて、そのニーズは多様化しています。彼らが今求めているのは、画一的な観光地巡りではなく、その土地ならではの特別な体験です。
本記事では、ゴールデンルート以外の地方が、いかにして中国人観光客を惹きつけ、誘客を促進できるか、その戦略を解説します。地域の「宝」である自然、食、文化を魅力的な体験コンテンツへと昇華させ、効果的に情報を届けるためのヒントを、成功事例と共にご紹介します。
中国人観光客を惹きつける「宝物」は足元に!自然・食・文化の魅力発掘法
中国人観光客の心を掴む鍵は、「そこでしかできない体験」にあります。彼らが日本の地方に求めるのは、自国では味わえない壮大な自然、奥深い食文化、そしてユニークな伝統文化です。重要なのは、すでにある地域資源を彼らの視点で見つめ直し、磨き上げることです。
- 「自然」:五感で味わうダイナミックな景観とアクティビティ 手つかずの大自然は、都市部の喧騒から離れて心身をリフレッシュしたいと願う中国人観光客にとって、非常に魅力的なコンテンツです。北海道のパウダースノーを求めてのスキーや、知床の流氷ウォークといった非日常的な体験は、強い感動を与えます。また、中央アルプスでの登山や、瀬戸内海の島々を巡るサイクリングなど、美しい景観の中で楽しむアクティビティは、旅の記憶をより鮮やかなものにします。大切なのは、ただ美しい景色を見せるだけでなく、トレッキングガイドやインストラクターと共に、安全に自然を満喫できる体制を整えることです。
- 「食」:ストーリーで味わう地域の恵みと食文化 日本の食への関心は非常に高く、ラーメンや寿司といった定番だけでなく、その土地ならではの郷土料理や旬の食材に注目が集まっています。漁港で味わう新鮮な海鮮丼、農家レストランで体験する収穫と調理、地元のB級グルメの食べ歩きなど、「食」を通じた体験は旅の満足度を大きく左右します。例えば、中国国内で地方都市「淄博(ズーボー)」のバーベキューがSNSで爆発的に話題となったように、意外な食文化がヒットする可能性も秘めています。その料理が生まれた背景や、地元での食べ方といったストーリーを添えて提供することで、食事が単なる消費ではなく、文化体験へと昇華します。
- 「文化」:本物への没入感とアニメ・コンテンツの力 歴史ある温泉旅館での滞在、着物を着て古い町並みを散策するといった体験は、日本の伝統文化に触れたいという欲求を満たします。茶道や書道、陶芸といった体験プログラムも根強い人気があります。 さらに、現代の日本文化であるアニメや漫画も、強力な誘客コンテンツです。人気アニメ『スラムダンク』の舞台となった神奈川県の江の島・鎌倉高校前駅の踏切には、多くの中国人ファンが「聖地巡礼」に訪れています。地域に眠るアニメや映画のロケ地を発掘し、公式なツアーやグッズ展開を行うことで、新たな観光客層を呼び込むことが可能です。
成功事例に学ぶ!ゴールデンルート以外の地方が中国人観光客を魅了した秘訣
すでに多くの地方が、独自の戦略で中国人観光客の誘致に成功しています。その事例から、誘客促進のヒントを探ります。
- 【宮崎県高千穂町】神話のストーリーテリングで魅了 当初、インバウンド誘致に苦戦していた高千穂町は、外国人観光客へのアンケート調査を実施。その結果、「日本神話」への関心が薄いことが分かりました。そこで、天孫降臨の地としての神秘的なストーリーを、多言語で分かりやすく伝えるプロモーションを展開。高千穂峡の絶景と神話の世界観をリンクさせたことで、その魅力が伝わり、多くの観光客が訪れるようになりました。これは、地域の文化的な背景を丁寧に伝えることの重要性を示しています。
- 【岐阜県高山市】インフルエンサーを起点とした動画戦略 高山市は、在日外国人や海外のインフルエンサー(KOL)を積極的に起用し、YouTubeやSNSで動画コンテンツを発信。彼らの視点を通して、古い町並みや飛騨牛、朝市といった高山の魅力をリアルに伝えたことが、多くの視聴者の「行ってみたい」という気持ちを喚起しました。特に、ターゲットとする国の出身者を起用することで、より共感性の高いコンテンツ制作に成功しています。
- 【静岡県】多様な魅力のパッケージ化とアクセスの良さ 富士山の絶景はもちろん、お茶摘み体験、温泉、海の幸など、多様な観光資源を持つ静岡県は、これらを組み合わせた周遊ルートを提案することで、ゴールデンルートからの「もう一足」を促すことに成功しました。首都圏からのアクセスの良さも強みとし、個人旅行者が訪れやすい環境を整えたことが、外国人観光客数の伸び日本一という結果に繋がりました。
「行きたい!」を引き出す。中国人観光客に響く情報発信とプロモーション戦略
どれだけ魅力的なコンテンツを用意しても、その情報がターゲットに届かなければ意味がありません。中国市場に特化した情報発信が不可欠です。
- 中国三大SNS(WeChat, Weibo, RED)を使い分ける 中国では、GoogleやFacebook、Instagramといったグローバルなプラットフォームは利用できません。そのため、**WeChat(微信)、Weibo(微博)、そしてRED(小紅書)**の活用が必須です。
- WeChat:公式アカウントでリピーター向けに質の高い情報を発信。
- Weibo:最新情報やキャンペーンを拡散し、認知度を高める。
- RED(小紅書):最も重要なプラットフォームの一つ。ユーザーのリアルな口コミが重視されるため、「種まき( seeding)」と呼ばれるインフルエンサーや一般ユーザーによる投稿で、自然な形での興味・関心を醸成します。観光情報の「検索」にも使われるため、REDでの露出は極めて重要です。
- KOL・KOCによる「リアルな体験談」の力 有名なインフルエンサー(KOL – Key Opinion Leader)だけでなく、より消費者目線に近い「KOC(Key Opinion Consumer)」の活用が効果的です。「#PR」の付いた広告的な情報よりも、実際に旅を楽しんでいる様子が伝わる「等身大の口コミ」が信頼されます。「誰と、どこで、何をしたか」というストーリー性のある投稿は、強い共感を生み、フォロワーの旅行意欲を刺激します。
- 「体験」を売るライブコマースとショート動画 現地の様子を生中継するライブ配信や、旅の魅力を凝縮したショート動画は、視聴者の五感に訴えかける強力なツールです。特に、ライブ配信中に宿泊券や体験チケットを販売する「ライブコマース」は、訪日前の需要を取り込む手法として注目されています。動画では、単に綺麗な景色を見せるだけでなく、アクティビティの楽しさや食事の美味しさが伝わる「体験型」のコンテンツを意識することが成功の鍵です。
まとめ:未来のインバウンド市場を勝ち抜くために
中国人観光客の地方への関心は、今後ますます高まっていくでしょう。この大きなチャンスを掴むためには、ゴールデンルートをなぞるのではなく、自分たちの地域が持つ独自の価値を見出し、磨き上げることが不可欠です。
足元にある自然、食、文化という「宝物」を、中国人観光客の視点で再発見し、彼らが心から楽しめる「体験」として提供する。そして、その魅力を中国のSNSユーザーに響く言葉とストーリーで届ける。この両輪を回していくことが、持続可能なインバウンド誘致、そして地域の活性化へと繋がるはずです。今こそ、あなたの街を、次のデスティネーションにするための挑戦を始める時です。